A.J.クローニン「帽子屋の城」

若い頃、夢中で読んだA.J.クローニンの作品の一つです。
何年か前に、全集を古書店で手に入れたまま、まだしっかり読み返す事が出来ずにいました。
少し溜まっていた読みたい本も落着いたので、ぼつぼつ読むことにしました。
先ず、処女作の「帽子屋の城」から、大体著作順に読みたいと思っています。
「帽子屋の城」は、医師として成功していた著者が、健康を損なって療養中に書いたものが、出版されるや大変な人気を呼び、医師を止めて著作を続けてゆく事になった記念の作品です。

帽子屋の主人ブローディーは、利己主義で思いやりの無い傲慢な性格のため、まわりから恐れられ、敬遠されるような状態でした。
恋人の子を宿してしまった上の娘を嵐の晩に非情に追い出し、帽子屋の商売は隣に商売敵の帽子屋が出来た為に破産、妻も病気で亡くし、妻が溺愛していた息子は父親の愛人と外国で仕事を見つけて出て行ってしまいます。学校の成績が良くてブローディーが一番自慢にしていた次女は、奨学資金を取れと言う父親の過度の期待と過酷な勉強の末に試験には失敗し、自殺をしてしまうという、破滅の物語です。ただ一人、長女は、恋人は事故で亡くし、子供も亡くしますが、窮地から助けてくれた医師と結婚することになり、幸せな結末を迎えます。
ストーリーとしては、ややありふれたような話で、私の好みから言えば、これより後に書かれた作品に好きな物が多いのですが、人物の描写なんかが詳しく、自然の描写も綺麗でクローニンらしいと思います。
もう、話の内容は、殆ど忘れていてしまっていましたが、懐かしい作品です。