A.J.クローニン「三つの愛」

このあいだ読んだ「帽子屋の城」に続くクローニンの第二作目の長編です。

このクローニンの全集は、1965年頃に三笠書房から出され、若い頃愛読したクローニンの主な作品が収められていて、今またぼつぼつ読み返そうとしているものです。
この「三つの愛」は、若い頃読んでいなかった作品です。
「帽子屋の城」の主人公は男性で、帽子屋の主人がその自己中心的な偏屈頑迷な性格で、家族を不幸に陥れ、自分も破滅してゆく物語でしたが、この「三つの愛」は、その女性版に近いものです。
主人公のルーシーは、あまりにも強い独占欲的な愛情で、夫とその従妹の仲を疑ってしまった結果、夫を失ってしまいます。
その後は、苦労に苦労を重ね、食べる物も食べない位の艱難辛苦の末、なによりも愛する一人息子を医師に育て上げるのですが、その自慢の息子の結婚に反対し、息子も手元から去ってゆく結果となります。
「夫への愛」、「息子への愛」に破れたルーシーは、最後に「神への愛」に救いを求めて修道女になる決心をして、修道院へ入りますが、その生活は想像していたような美しいものではなく、あまりの厳しさについに逃げ出し、元の世界に戻る事になってしまいます。
唯一の頼りは息子ですが、出迎えを頼んだ息子は旅行中で連絡がつかず、ルーシーは倒れて収容された病院で一人寂しくその生涯を終えます。
自分の強い独占欲が招いた結果とはいえ、ルーシーには同情すべき点もあり、同じ女性として、憐憫の情に駆られます。
なかなか読み応えのある、良い作品だったと思います。