A.J.クローニン 「恐怖からの逃走」 を読む


クローニン全集の第18巻に入っている中篇の「恐怖からの逃走」を読みました。
この全集は、またゆっくり全部読みたいと思っているのですが、この「恐怖からの逃走」を先ず読みたかったのには、訳があります。
テレビで、外国の紀行物の様な番組が好きでよく見るのですが、ヨーロッパの町のお祭りで、マリア様とか聖人の像をかついで行列して歩くのを時々見ます。
そういうのを見る度に、たしかクローニンの小説で、そんなのがあったが、と思い出していました。なにかの理由で、追われて逃げる主人公が、その行列に紛れてなんとか逃げる事ができたのです。
この間、クローニンの全集の事を書くのに、本棚の奥から出して調べて、この作品だという事が分かりました。

ストーリーは、1950年、まだ世界大戦の残した陰のあるオーストリアです。
アメリカの建築会社のウィーン支社長である主人公ブライアントが、仕事で、まだソ連の占領下にある地方の町へ行く事になりますが、親友に頼まれてそこで歌手をしている女性マドレーヌを連れ出そうというのです。
勿論、どこへ行くのにも許可が要りますし、自由に動けるわけではないのですが、なんとかこの女性を見つけ出す事が出来ます。
マドレーヌは、抵抗運動のメンバーとして、眼を付けられている一人だったのです。山越えの苦しい逃避行に、ソ連の秘密警察の執拗な追跡が続きます。見つかればもうお終いです。
やっとのことで、二人は山を越えて、ある田舎町へたどり着きますが、そこもやはり占領下です。
丁度この町では、この地方の伝統のお祭りで、近隣の町々から聖人の像を担いだ行列が集まって来ます。
ブライアント達は、お祭りの人ごみや見世物に紛れて、脱出の機会を探します。
ソ連の占領下でない町からも、許可された聖人聖女の像の行列が来ます。もとの町へ帰る時に主人公は司祭に頼み、マドレーヌを聖女の像に仕立てて紛れ込み、なんとか無事にウイーンへ帰ることが出来ます。
この、聖人の行列が、気になっていたことでした。
テレビで見たお祭りの様子を思い浮かべながら読みました。