タナ・フレンチ「道化の館」

「悪意の森」の作者タナ・フレンチの第2作「道化の館」を読みました。
やはり、アイルランドが舞台で、「悪意の森」にも登場していた(私はすっかり忘れていたのですが)キャシー・マドックス刑事が主役になっています。
あれから後、キャシーはDV対策課に移動となっていましたが、ある日呼び出されて、かって属していた事のある潜入捜査の仕事をすることになります。
以前の仕事というのは、アイルランド国立大学ダブリン校の学内で暗躍する麻薬売買の売人に、学生になりすまして接近して、背後の麻薬組織を暴く作戦でした。
その時、捜査の指揮を執ったフランク・マッキー刑事と共に架空の女子学生「レクシー・マディソン」と言うキャラクターを作り上げ、その女子学生になりすまして、学内に潜入したのです。
キャシーには売人に刺されたりしましたが、事件は解決しミッションは終わりました。

今回の「道化の館」では、ダブリンに近い地方の村にある廃屋で、「レクシー・マディソン」と名乗るトリニティ・カレッジの大学院生の学生証を持った女性の刺殺体が見つかったことから、話は始まります。
この女性は、なんとキャシーの演じた「レクシー・マディソン」という架空の名前を名乗るばかりか、顔や姿かたちがそっくりだったのです。
この「レクシー2号」は、学院の仲間4人と昔領主の館であった古い邸宅で共同生活をしていました。
この仲間の一人が、大叔父から遺産として相続した館だったのです。
「レクシー2号」は本当は死んだのですがそれは秘密にされ、命を取りとめ傷も癒えたことにして、キャシーが彼女になりすまして潜入捜査すべく、この仲間達との生活に入り込むのです。
いかに、ビデオ等で「レクシー2号」の言動の様子を学習したと言え、そして、顔や背格好などがそっくりであったとしても、毎日生活を共にしてきた仲間達に怪しまれずに済むはずが無いと思うのですが、まあそれを言えば、小説が成り立たないので、眼をつむって読むしかありません。
なんとなく、ふわふわとした彼ら5人の共同生活の様子も不思議な感じの作品でした。
アイルランドは、イギリスの支配を受けてきた歴史があり、支配するイギリス人と支配されるアイルランド人との関係がこの小さな村の中にもずっと影を落としていて、元領主の館に住む若者達と村人たちとの間にも深い溝があったのです。
この作品は、沢山の賞を取った「悪意の森」をも凌ぐ出来栄えと紹介されていますが、どうでしょうか。

道化の館  上 (集英社文庫)

道化の館 上 (集英社文庫)

道化の館  下 (集英社文庫)

道化の館 下 (集英社文庫)