ケン・フォレット「鷲の翼に乗って」を読む

「大聖堂」や「針の目」で好きな作家のケン・フォレットの作品なので、家族の者がブック・オフで見つけてくれた「鷲の翼に乗って」です。
これは、どんな作品か知らなかったのですが、実際にあった事件をもとにした小説で、一部の人名は変えてありますが、殆どが実名のままで写真も載っています。
「事実は小説より奇なり」と言う言葉はこの事かと思いました。
辛い経験をした登場人物の人達には悪いかも知れませんが、本当に面白い作品でした。

1978年12月、イランのテヘラン市で事件は始まります。
テヘランにあるアメリカの民間会社EDS(エレクトロニック・データ・システムズ・コーポレーション)イラン支社は、イランの社会保障制度のシステム作りの仕事を請け負っていました。
当時、イランは政情不安がつのり、国王は国外に逃れ、反体制派が暴動を起こす危険な状態でした。アメリカ人や、アメリカの企業も狙われる恐れがありました。
EDSイランの二人の幹部、ポールとジムが、保安判事のダッカ―ルによって、賄賂を使ったという無実の罪で捕らえられ、刑務所に入れられます。
アメリカ、ダラスにあるEDS本社では、イラン支社を閉め、社員の家族は帰国させ、会長のペロウがこの二人を救う為に、政府や大使館に助力を求めますが、ダッカールの前には無力で、なす術が無い状態です。
ペロウ会長は、保釈金などの解決策を探る一方で、ベトナム戦争経験者である社員等をあつめ、また戦争時に捕虜収容所を襲撃して救出作戦を指揮したサイモンズを隊長とする救出部隊を結成、刑務所を襲撃してポールとジムを奪還すると言う奇想天外ともいえる計画を立てます。
テヘラン市内の暴動も激しくなり、刑務所襲撃計画が実行される間際に二人の人質は、警備体制の厳しい別の刑務所に移されてしまいますが、反体制派の刑務所襲撃に乗じて二人は逃げ出す事が出来ました。しかしイラン国外へ出るのはもっと大変な事なのです。計画はアメリカに友好的であるトルコへ一旦脱出するというものでしたが、執拗に探しまくるダッカールの手が迫ります。また、山賊や、無法者集団の危険にもさらされます。
この間に、テヘランのアメリカ大使館が襲撃されたりもします。
幾多の困難の中、ポールとジムは危うい偽のパスポートで、救出部隊のメンバーと車でトルコとの国境をなんとか越える事が出来るのですが、何度ももう駄目かと、はらはらどきどきの連続でした。現地採用の社員の機転や協力も大きかったのです。
EDSの会社のペロウ会長は、社員に忠誠心を求める一方、社員を大切にして、自分の命も賭ける位立派に社員を守り抜きました。
会長と社員(現地人の社員も含めて)の結束が凄いと思いました。
厳しい話も、作者のユーモラスな表現に救われ、登場人物達のキャラクターもよく描かれ、予想外の面白い冒険活劇になっています。